◇日本の散骨の歴史や今後について
現在は人が亡くなると、火葬をして墓地に埋葬することが一般的ですから、散骨という供養の方法が、最近出てきた新しい方法に見えるかもしれません。
しかし、実は散骨というのは、日本でも古くから行われていた方法なのです。
そこで今回は、日本の散骨の歴史をご紹介しながら、今後日本の散骨はどうなっていくのか?ということについて、お伝えしたいと思います。
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散骨は、日本においても万葉集で詠まれるほど、古くから行われてきた供養の方法です。
散骨はインドで始まり、アジアに伝わったと考えられています。インドでは、今でも遺灰をガンジス川に流して祈りを捧げる風習が残っていますし、そもそも日本の墓地に当たるようなものがありません。
日本では、奈良時代にはすでに散骨が行われていたようです。万葉集にも散骨についての歌が残っていることもあり、日本では古くから行われていたと考えられます。
ただ、庶民の間では散骨することがあったとしても、高貴な身分の人がやるものではなかったようで、平安時代に淳和天皇が散骨をした記録が残っていますが、これは当時としてはかなり異例のことだったようです。
なぜなら、「続日本紀」に淳和天皇の散骨についての記述があるのですが、そこには中納言藤原吉野が散骨を辞めてもらうよう、天皇を諌めたという記述もあるからです。
散骨がすでに日本では珍しくない方法となっていたとしても、それは庶民や身分の高くない人がやることであって、日本で一番の権力者であった人がやる方法としてはふさわしくないと思われたのでしょう。
この当時は、天皇がなくなれば山稜を築くものですから、それを散骨してしまうというのは、とても抵抗のあることだったと思われます。
しかし、散骨という方法自体は、平安時代には広く広まっていたということでもあるでしょう。
では、天皇までが行なっていた散骨という方法が、だんだん主流ではなくなっていったのはなぜなのでしょうか。
それは、江戸時代に入り、「檀家制度」が強化されたからです。
檀家制度とは、誰もがどこかの寺院の檀家となり、寺院から寺請証文を受け取ることを義務付けた「寺請制度」が始まりです。
キリシタンを排除する目的で始められた制度で、檀家はどこかの寺院に所属することによって、葬儀などの儀式を全て行ってもらう代わりに、布施を払います。
寺院は「宗旨人別帳」を作成しており、家族ばかりでなく、奉公人なども記録されていました。
檀家制度によって、お寺にお墓を作ることが必須となりますから、当然のことながら散骨という方法は行われなくなっていきました。
そして、現代になると「墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)」という法律によって、遺骨を墓地以外に埋葬してはいけないということになりました。
これにより、お墓を作らずに埋葬することができなくなったことから、散骨はお墓を建てない方法なのでやってはいけないのでは?という考え方をする人も増えてしまいました。
それでは、今後の日本の散骨はどうなっていくのでしょうか。
いうまでもありませんが、散骨は違法ではありません。
もちろん、ご遺骨をパウダー状にしたり、撒く場所を考慮するなどのルールやマナーは存在しますが、必ずしもお墓を建てなくては供養できないということではないのです。
「墓埋法」はご遺骨をそのままの形で、墓地以外に埋めてはいけないという法律であって、散骨自体を禁止したものではありません。
ですから、「埋葬」をしなければお墓を建てる必要もなく、場所をわきまえて散骨をすれば問題はないのです。
むしろ、お墓を代々管理していくという方法が崩れつつある今、お墓を持たなくても故人を供養できる散骨という方法は、今後増えていくと考えます。
ただし、公的機関が公に「散骨は合法である」と認めたわけではないということを忘れてはなりません。
マナーやルールを無視した散骨が横行してしまうと、今後法による規制が入る可能性も捨てきれないのです。
誰もが散骨を自由に行えるようにするためには、節度を守って行うことがとても大切です。
お墓を建てるとなると、墓地や墓石の購入費からお墓を維持管理していく費用など、多額のお金がかかります。
定期的にお墓詣りをして、きれいに保っていく必要もあるので、手間と時間もかかります。
近くの墓があればまだ良いのですが、遠くから通うとなると交通費もバカになりません。
その点、散骨なら、粉骨をする費用や散骨業者に依頼するときの費用くらいですから、お墓を建てることに比べたら、かなりの低コストで実施できます。
また、宗教とは関係なくできますので、特定の宗教に頼らずに故人を見送りたいという方にも、適した方法なのです。
今はあまりメジャーではないですが、宇宙に散骨するなど、海や山に散骨する方法以外のものも出てきています。
コストがかかるので、選択する人が少ないものの、今後は様々な散骨の方法が出てくることも大いに考えられます。
いずれは、海や山だけでなく、月や火星に向かって散骨する、なんて方法がメジャーになる日が来るかもしれないですね。
家族の形が変わるとともに、代々お墓を維持していくというのも難しくなってきました。
今、古来から行われてきた散骨という方法が見直されているのは、時代の変化を考えると、当然のことだと言えそうです。
誰もが無理なく、思い思いの方法で故人を弔うことのできる散骨という方法は、今の時代のニーズに合っているともいえるでしょう。
今後は、お墓を建てるよりも、散骨という方法が主流になっていく時代がやってくるかもしれません。